構築仕様書は、秘伝のたれです
サイトのあちこちで「ClaudeCode構築仕様書」という言葉を使っています。ブログでも、記事の最後にはたいてい出てきます。
ただ、中身を説明したことがありませんでした。名前だけ出てきて実物が見えない状態は、検討する側からすると落ち着かないと思います。ここで開示します。
タイトルに書いたとおり、この文書にいちばん近いのは、老舗の秘伝のたれです。まず、そこから説明します。
たれには、3つの性質があります
老舗のうなぎ屋やラーメン店には、継ぎ足しで使われているたれがあります。あれには3つの性質があります。
店の味を決めます。 同じ食材を仕入れ、同じ手順で焼いても、あのたれがなければ同じ味にはなりません。
継ぎ足して育ちます。 開店した日のたれと、10年目のたれは別物です。使うほど濃くなります。
よそから買えません。 調味料は同じものが手に入っても、配合が違います。その配合こそが、その店の差です。
御社の業務にも、これにあたるものがあります。どの取引先にいくらで出すか、どこまで値引きしてよいか、どの場合は例外にするか。この積み重ねが、御社の仕事の質を決めています。
問題は、それが壺ではなく、ベテランの頭の中に入っていることです。 頭の中にあるうちは、継ぎ足すことも、誰かに分けることもできません。その人が倒れた日に、店が閉まります。
構築仕様書は、それを取り出して、継ぎ足せる形にしたものです。
あるときと、ないときで何が変わるか
いちばん分かりやすいのは、同じ指示を出してみることです。
「先月分の見積書を作ってください」とClaudeCodeに頼んだとします。仕様書がある場合とない場合で、返ってくるものはこう変わります。
| 仕様書がない | 仕様書がある | |
|---|---|---|
| ひな形 | 一般的な見積書の形式で出てくる | 御社のひな形で出てくる |
| 単価 | 分からないので聞き返される | 単価表を参照して入る |
| 値引き | 判断できない | 決めた範囲の中で処理される |
| 例外の取引先 | 通常どおり処理されてしまう | 例外として扱われる |
| 指示を出す人が変わったら | 出てくるものが変わる | 同じものが出てくる |
| 前回と同じ指示 | 前回と違う結果になることがある | 前回と同じ結果になる |
この差は、ClaudeCodeの性能の差ではありません。書かれていないことは判断できない、というだけの話です。
仕様書がない状態でも、詳しい社員が毎回丁寧に説明を足せば、それなりのものは出てきます。ただ、それはその人が毎回説明しているというだけで、会社としては何も積み上がっていません。その人が休んだ日に、元に戻ります。
なぜ「仕様書」という形で残すのか
導入支援を受けたのに、しばらくすると元に戻ってしまう。よくある話です。
原因の1つは、支援の中身が口頭の説明で終わっていることです。説明を受けた人が異動したり退職したりすると、そこで消えます。残るのは「前にAIの人が来て、何か話していた」という記憶だけです。
文書として残せば消えません。ただし、残す文書の種類が問題になります。
AI導入支援の成果物は、提案書や診断レポートであることが多いようです。それらは人が読むための書類です。読み終えたあと、実際の運用に反映するのは自社の仕事として残ります。
構築仕様書は、そこが違います。
この文書は、人だけが読むのではありません
構築仕様書は、ClaudeCode自身が読み込む文書です。
ClaudeCodeには CLAUDE.md という仕組みがあります。決められた場所にこのファイルを置いておくと、作業を始めるたびに中身を読み込みます。公式ドキュメントでも、プロジェクトの直下に置くと毎回のセッション開始時に読まれる、と説明されています。
構築仕様書の内容は、この CLAUDE.md としてそのままClaudeCodeに入れます。別に文書を作って、それを誰かが手作業で設定に写し替える、という形ではありません。書いてある文章が、そのまま動作の前提になります。
そのため、この成果物は2つの性格を同時に持ちます。
- 人が読んで理解できる、日本語の業務ドキュメント
- ClaudeCodeが毎回参照する、動作の土台
提案書との違いは、ここです。提案書は読み終われば役目を終えます。構築仕様書は、読み終えてからが本番です。
お渡しの形式はMarkdown(.md)というテキストファイルです。特別なソフトは要りません。メモ帳でも開けますし、中身は普通の日本語です。
では、何が書いてあるのか。大きく4つです。
中身1:業務ルール
どの業務を、どの順番で、どう進めるか。手順そのものです。
たとえば見積書であれば、使うひな形はどれか、どのフォルダの資料を参照するか、出力はどこに置くか、といったことを書きます。見積書づくりをClaudeCodeに任せるまでの手順で「ひな形を1つに決める」と書きましたが、決めた結果がここに入ります。
社内では「そんなことは全員知っている」と思われている内容が多くを占めます。ただ、書いてみると人によって認識が違っていた、ということがよく起こります。
中身2:判断基準
迷ったときに、何を基準に決めるか。たれの配合にあたる部分です。4つのうち、いちばん価値があります。
業務の手順は書けても、判断の根拠は書かれていないことがほとんどです。値引きをしてよい範囲、例外を認める条件、人に確認すべき場面。こうしたものは、多くの場合ベテランの頭の中にあります。
ClaudeCodeは書かれていないことを判断できません。逆に言えば、書いてあれば誰が指示を出しても同じ判断になります。ここが、属人化を解く部分です。
中身3:よくある対応パターン
手順と基準を書いても、実務では必ず例外が出ます。
- この取引先だけは扱いが違う
- この時期だけは進め方を変えている
- この質問は毎回のように来る
「当然そうしている」と思っていて、言葉になっていないものです。ヒアリングの中でこうした例外を拾い、書き出します。これがないと、原則どおりに処理されて現場が困る、という事態が起きます。
中身4:扱ってよい情報の線引き
どの情報をClaudeCodeに渡してよく、どれを渡さないか。
判断が分かれる部分なので、社員の方がその都度悩まずに済むよう、範囲を明記します。考え方はAIに入れてよい情報を、どう決めるかに書いたとおりです。法令の解釈そのものは書きません(後述します)。
よそのたれを買ってきても、同じ味にはなりません
たれの3つ目の性質、「よそから買えない」の話です。
世の中には「AI活用のプロンプト集」のようなものが出回っています。参考にはなりますが、それを入れても御社の見積書は出てきません。御社の単価表も、例外の取引先も、社内で使っている言い回しも、そこには入っていないからです。
調味料は同じものが手に入っても、配合は店ごとに違います。そして、その配合こそが差になります。
だから、この文書は買ってくることができません。御社の中にあるものを引き出して、書き起こすしかない。手間はかかりますが、手間がかかるからこそ、そのまま真似されない資産になります。
継ぎ足して、濃くしていくもの
正直にお伝えしておきます。この文書は、お渡しして完成ではありません。
業務は変わります。取引先も、単価も、体制も変わります。そのたびに書き足していく必要があります。そして、その作業は基本的に御社にやっていただくものだと考えています。
外部に更新を任せ続けると、結局また「詳しいのは外の人」という状態に戻ります。それでは、社員にAIを配っても、使われない理由で書いた問題を、形を変えて繰り返すことになります。
ただ、これは負担というより、続けるほど効いてくる部分です。
- 判断に迷った場面を1つ書き足せば、次からその判断は自動的に揃う
- 新しい例外を1つ書き足せば、次の担当者はそれを知らなくても間違えない
- 書き足した分だけ、引き継ぎ資料としての完成度も上がる
たれと同じで、継ぎ足すほど濃くなります。1年後の仕様書は、お渡しした日のものとは別物になっているはずです。
もちろん、いきなり「あとはご自由に」とはしません。**どこをどう直せばよいか、というやり方の部分はご説明しますし、継続支援の中でご相談いただけます。**更新の作業そのものは御社で、迷ったときの相談先は用意しておく。この形が、いちばん長く続くと考えています。
Markdownファイルでお渡ししているのも、この前提があるためです。特別なソフトが要らないので、御社の中で開いて、書き足していけます。
書かないこと
何を書かないかも、あわせてお伝えしておきます。
法令の解釈は書きません。 個人情報の扱いや契約上の制約について「この場合は問題ない」といった判断は、私たちが決めることではありません。線引きの設計はお手伝いしますが、法律判断は顧問弁護士や所属される会にご確認いただく前提です。
業務そのものの是非は決めません。 「この承認手続きは無駄だからやめましょう」といった判断は、御社の経営判断です。仕様書に書くのは、いまの業務をどう任せるか、という部分にとどめます。
このあたりを曖昧にしたまま進めると、あとで責任の所在が分からなくなります。先に線を引いておくほうが、お互いに動きやすくなります。
まとめ
- 構築仕様書は、業務ルール・判断基準・よくある対応パターン・扱ってよい情報の線引きの4つで構成される
- 提案書と違い、ClaudeCode自身が毎回読み込む。あるかないかで、同じ指示への答えが変わる
- よそから買ってくることはできない。継ぎ足すほど濃くなり、御社だけの資産になる
いま、その配合は誰かの頭の中にあるはずです。その人が説明できるうちに、文章にしておく価値があります。
社内にあるルールを言葉にする作業は、外から質問される形のほうが早く進みます。「何をどこまで書けばよいのか分からない」という段階でも構いませんので、お気軽にご相談ください。