社員にAIを配っても、使われない理由
アカウントは配りました。研修も一度やりました。半年後に見てみると、使っているのは数人だけ。そうしたご相談をいただくことがあります。
総務省の『令和7年版 情報通信白書』によると、生成AIを活用する方針を定めている企業は49.7%で、前年度の42.7%から増えています。方針を決める会社は着実に増えました。ただ、方針を決めることと、現場で使われることは別の話です。
ここでは、配ったのに使われない状態がなぜ起きるのかを整理します。
使わないのは、やる気の問題ではありません
まず切り分けておきたいのは、これが社員の意欲の問題ではない、ということです。
アカウントを配るのは、道具を渡す作業です。そこでは「この道具を、どの仕事の、どの場面で使うのか」が決まっていません。置き場所の決まっていない道具は、使われないまま引き出しに入ります。
現場の側から見ると、話はもっと単純です。目の前の仕事は今日中に終わらせなければなりません。そこに「新しい道具を試す時間」は含まれていません。試した結果うまくいかなければ、その時間は丸ごと損になります。
「空いた時間に触ってみて」という案内は、現場では「やらなくてよい」という意味に受け取られます。空いた時間は、たいていありません。
「好きに使ってみて」が、いちばん難しい指示
自由に使ってよい、というのは親切なようで、実はいちばん難易度の高い指示です。白紙の状態から用途を考える作業は、その道具に詳しい人にしかできません。
ここは会社の側で決めるところです。最初に任せる業務を、会社が1つ指定します。
選ぶ基準は3つです。
- 毎週または毎月、繰り返し発生する
- 手順がある程度決まっていて、人に口頭で説明できる
- 失敗しても、すぐに気づけて取り返しがつく
3つ目を入れているのは、最初の1件で事故が起きると、社内の空気が一気に固くなるためです。「やっぱり危ない」という印象は、あとから覆すのに時間がかかります。
間違いの責任が決まっていないと、怖くて使えない
ここは、意外と見落とされている点です。
AIが作った資料に間違いがあったとき、誰の責任になるのか。これが決まっていない会社は少なくありません。決まっていないと、慎重な社員ほど手を出さなくなります。真面目な人ほど使わない、という状態が起きます。
決めておくのは、最低限この3つです。
| 決めること | 例 |
|---|---|
| 誰が確認するか | 作成した本人か、上長か |
| どこまで確認するか | 数値と固有名詞は必ず突き合わせる |
| そのまま出してよい文書 | 社内メモは可、社外向けは必ず確認 |
「AIが間違えた」という言い方は通用しない、と先にはっきりさせておくほうが、かえって親切です。責任が人にあると分かり、確認の手順が決まっていれば、安心して使えます。
「AIを使うのは手抜き」という空気
もう1つ、目に見えにくい要因があります。社内の空気です。
自分で書かずにAIに書かせることが、手を抜いているように見える。そうした空気があると、使っている人は黙って使うようになり、社内には広がりません。
これは評価の問題です。2つ確認してみてください。
- 経営者や管理職が、自分で使っている姿を見せているか
- 早く終わらせた人が、次の仕事を追加で振られるだけになっていないか
後者は見落とされがちです。効率化した人の手が空いた分だけ仕事が増える運用になっていると、誰も効率化しようとしません。
差が開くと、下の人が諦める
使い方を個人の工夫に任せると、うまく使える人とそうでない人の差が開きます。差が開くと、うまくいかない側は「自分には向いていない」と判断して離れていきます。
原因は、指示の出し方が個人の頭の中にしかないことです。つまり、属人化と同じ構造です。
対処は、各自に工夫させるのではなく、会社のルールとして書いて共有することです。ClaudeCodeであれば、CLAUDE.md というファイルに会社の判断基準を書いておくと、作業を始めるたびに読み込まれます。この仕組みについてはClaudeCodeとChatGPTは、何が違うのかで書いています。
使われなくてよい場合もあります
最後に、逆のことも書いておきます。
繰り返しの業務がほとんどない部署に、無理に広げる必要はありません。年に数回しか発生しない仕事や、そのつど判断の根拠が変わる仕事では、覚えさせるコストのほうが上回ります。
全社員が毎日使っている状態が正解、というわけではありません。使う部署と使わない部署が分かれていても、それが業務の実態に合っているなら問題はありません。
まとめ
- 使われないのは意欲ではなく、業務の中の置き場所が決まっていないため
- 最初の1業務は会社が指定する。間違いの責任の所在も先に決める
- 指示の出し方は個人任せにせず、会社のルールとして書いて共有する
配ったのに使われていない、という状態からの立て直しは、新しいツールを探すことではありません。決めていなかったことを、決める作業です。
Black Bullの導入支援では、どの業務から任せるか、誰がどこまで確認するかを含めて「ClaudeCode構築仕様書」という形にまとめ、御社に残しています。すでに一度うまくいかなかった、という状態からのご相談でも構いません。